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【本のレビュー】『小説ドラゴンクエスト』――大切なものをボロボロにされた思い出が上書きされた買い物の記憶。

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お題「#買って良かった2020 」 

『小説ドラゴンクエスト』のハードカバー版が復刻されていることを最近知りまして。購入してあらためて読み直してみました。それは想像以上に、ノスタルジックな気持ちにさせてくれるひと時だったんですね。

 

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俺は、本を大切な扱わない人間がキライです。

 

自分としては信じられないことなのですが、世の中には本を大切に扱わない人が一定数いるということは昔から知っていました。図書委員などをやっていると、返却BOXに乱暴に入れる人がいたり、ガバッと開いて読んでいたり、本の近くで飲み物を飲んでいたり、おいおいおいおいおいおいおいおい、ちょっと待て、と言いたくなる場面を何度も見てきましたから。

 

しかし、それはあくまで、俺自身の本への扱いのルール、作法、美学のようなもので、他人に強要すべきことなのか微妙なラインだったりします。なので、基本的に俺は俺、他人は他人、というスタンスを取ってきました。そんな俺が、「本を大切に扱わない人間がキライ」ということを自覚したのと、「大切な本は人には絶対に貸さない」という自分ルールを決めたのは、この『小説ドラゴンクエスト』がちょっとだけ関係しています。

 

『小説ドラゴンクエスト』は、脚本家でもあり小説家でもある高屋敷英夫さんによるファミコンゲーム『ドラゴンクエスト』の小説版です。小説版ではあるのですが、文学的な小説というよりは、脚本寄りのライトノベルといったほうが正しいかもしれません。主人公の心情描写は控えめで、ストーリーを楽しませるほうに特長が出ている作品といえるでしょうか。

 

俺はこの作風は、『小説ドラゴンクエスト』としては正解だと思っています。『ドラゴンクエスト』というゲームはRPGとしてプレイヤー自身がゲームの主人公を演じ、物語を作っていくことを目的にしているものですから。となると小説にする以上、誰かの物語になってしまうわけですが、とはいえ、完全に作者オリジナルの小説になっていないあたりの距離感が、個人的には絶妙だと思っています。

 

余談になりますが、『ドラゴンクエストIV』以降の小説を担当されている久美沙織さんの小説は、よく言えば作風が出ている、悪く言えば作品を私物化している感じがしていてあまり好きではありません。まあ、これは好みの問題ですが。

 

高屋敷英夫さんの『小説ドラゴンクエスト』は、ゲームシナリオである『ドラゴンクエスト』のストーリーを小説にするにあたって、無理のないように新しい解釈や設定を付け加えつつも、ゲームでの体験にイメージをさらに膨らませるような作りになっています。例えば、ラダトーム城からガライの町に向かって北上しながら敵と戦ってHPの残りを気にしていた経験を、ラダトーム街道を伝って砂漠に入り、すでに20日が経過していたという描写を描いてくれた感じなのです。

 

ドラゴンクエスト』の一作目って、地味な作品なんです。パーティ制ではなく一人旅ですし、呪文もあまり派手なものが使えません。そんな『ドラゴンクエスト』の旅の意味を教えてくれたのは、この『小説ドラゴンクエスト』でした。主人公のアレフは、勇者に憧れる少年で、自分が伝説の勇者ロトの血を引く者ということを知って、最初は無邪気に喜びます。しかし、旅を続けていくうちに、自分の無力さを知り、挫折を味わい、何度も倒れることに。それでも立ち上がり、前に進んでいく。旅の中で勇者に憧れていた少年は、勇旅先で出会った多くの人たちの力を借りて、ホンモノの勇者へと成長していく。大切なのは、出自ではなく行動であることを、ゲーム『ドラゴンクエスト』の醍醐味を、俺は『小説ドラゴンクエスト』で知ったのでした。

 

それで、当時同じ塾に通っていた友人Tがいたのですが、俺は彼のことを親友だと思っていて、彼にも同じことを感じてほしくて、本人が借りたがっていたのでこの本を貸したんですね。そしたら、たった1週間ですげえボロボロになって返ってきたんですよ。ページの端々は折れているし、背表紙には折れた後がついているし、ピカピカだった表紙は手垢がついているし、お菓子とかハナクソがついているページもある。で、本人の感想は、「ドラクエの小説なら読めっかなーって思っていたんだけど、やっぱ俺、活字苦手だわー」だったんですね。

 

貸したのは俺の意思ですし、友人Tに思いを共有したいと思ったのも俺のエゴです。だから、本を弁償しろとは言いませんでした。言いませんでしたが、世の中には本を大切に扱わない人がいるということと、同じ本を読んだからといって他人が自分と同じ感想を持つとはかぎらないということを学びました。

 

他の人からしたら、大したことが書かれていない小説だったかもしれません。でも、俺にとっては面白かったし、大切なことを教えてくれた本でした。それがボロボロにされて帰ってきたとき、自分の思いも雑に扱われたような気がしたんですね。それはたぶん、俺に対しても同じなんだろうなと。この時、分かりました。親友だと思っていたのは、俺のほうだけなんだろうなということも。心に負ったキズとボロボロにされた本によって、中学生の俺は少しだけ成長しました。

 

その後、捨てるに捨てられないけど、ボロボロの姿を見ると哀しい気持ちになる『小説ドラゴンクエスト』は20年近く本棚にしまったままだったのですが、俺が実家を出て彼女と同棲をする際、処分しました。それから、また10年ぐらいが経って、ハードカバー版が復刻されたという話を聞いて、買い直した次第です。

 

今、手元にピカピカの『小説ドラゴンクエスト』があります。主な使い道は、小学生の息子の寝る前に毎日30分ずつ読み聞かせて。息子は本をていねいに扱います。愛情いっぱいに本を楽しんでいます。エゴかもしれないですが、そんな子どもにそだってくれたことが俺は嬉しいです。

 

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