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【映画レビュー】『転校生 ~さよなら あなた~』――“転校生”の設定を使って「生きる」ということは何かをつきつける泣ける映画!

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こんにちは、レトロゲームレイダー/ジョーンズです。
今回は、大林宣彦監督による名作『転校生』のセルフリメイク作『転校生 ~さよならあなた~』(2007年)をご紹介します。大切な何かを失うという経験をしたことがある人にはすごく響く、そして応援歌となるステキな作品です。個人的に超オススメ。

 


 

 

名作『転校生』とは

児童文学の名作『おれがあいつで あいつがおれで』を原作とした大林宣彦監督の映画で、一文字違いの斎藤一美斎藤一夫がふとしたことで心が入れ替わってしまい、男の心を持った女の子、女の心を持った男の子になってしまうという物語です。

 

 

原作である『おれがあいつで あいつがおれで』と俺が出会ったのは小学5年生のとき。ホームルームの先生の読み聞かせで読んでくれたのがこの作品でした。あらためてアマゾンで購入して読みましたが、40歳をすぎても面白かったです。

 

ラストシーンで男の子より成長している女の子の一美が「一夫大好き」という感情を爆発させてキスしまくるシーンがあるのですが、この記述が「めちゃめちゃに俺の口を吸って、口の中のペパーミントを吸い取っていった」というエロい感じで、小学生だった俺は妙にドキドキしたものです。まあいいか、こんな話。

 

映画『転校生』は、原作では小学生だった二人が中学生に引き上げられ、異性という存在が身近にいながら理解できないにも関わらず意識せずにはいられない存在になったことで、なんとも心にキュンキュンくるエンタメ青春映画になっています。名作。

 

 

今回ご紹介する『転校生 ~さよならあなた~』は、名作『転校生』を撮った大林宣彦監督自身によるリメイク作品。正直、僕は大御所監督が昔のヒット作をリメイクするということにあんまりいい印象を持っていなかったし、本作のビジュアル(↓)からも「へえ、あの『転校生』を今の俳優さんで撮り直すんだ」くらいにしか思っていませんでした。『時をかける少女』の実写版リメイクとか『ぼくらの7日間戦争』のアニメ版とかみたいに、そんなに興味が湧いていなかったんですね。

 

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ところがどっこい!『転校生 ~さよならあなた~』は肝心な部分をまったく表に出していないのですが、観てみるとすごい作品でした。『転校生』のリメイクではあるのですが、同じ設定を使って、まったく違うことを描いた作品だったんですね。この作品で大林監督が描いたのは死生観。「生きるとはどういうことか」というものでした。

 


映画『転校生 さよならあなた』 予告

 

主演の蓮佛美沙子さんがやばい!(ほめ言葉)

ダブル主演の作品なのですが、女の子役(斉藤一美役)の蓮佛美沙子さんのインパクトがハンパないです。

 

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入れ替わり前の、いつも空想の物語を作ったり、彼氏とのファーストキスのことをペラペラと人前で話してしまう、ちょっと幼い斉藤一美も可愛らしいのですが。入れ替わり後の、肌の露出が多く、男勝りで喜怒哀楽がはっきりしている斉藤一美もりりしく美しいです。これね、観ているうちにこの斉藤一美という女の子のことが好きになっちゃうんですよ(笑)

 

観ているうちにこの斉藤一美という女の子のことが好きになっちゃう。これが本作のポイントなんですね。

 

本作は前作の『転校生』よりも女の子側に多めにスポットを当てている作りになっています。これはおかしいことなんですよ。なぜなら、男女入れ替わりというのは、本来も入れ替わったことによる双方の活躍を描かなければならないもの。しかし本作ではあえてそれをしない。その理由は、本作が『転校生』と異なる後半の展開――蓮佛美沙子さんが演じる斉藤一美が不治の病にかかって死んでしまうから。

 

観客に劇中の登場人物が死んでしまうことによる喪失感を味あわせるために、むしろのこの作品はその喪失感がないと成り立たないため、斉藤一美という女の子を魅力的に描くとともにスポットライトを当てているのだと、俺は感じました。この作品の一般レビューの中には「女の子の肌の露出が多すぎるロリコン向け映画」「女優さんにこのような演技をさせる理由が分からない」といったものもありますが、俺は意味はちゃんとあると思っていて。1つは観客が女の子のことを好きになるため。男は肌の露出が多い、見せてくれる女の子のことを嫌いになれない生き物です。もう1つは、若さを伝えるため。「16歳の女の子が死ぬ」という事実を映像として印象付けるためには、肌や裸を見せるのがもっとも効果的だからなんですね。

 

その監督の期待に応えきっているという点が、蓮佛美沙子さんがやばいと本作を評する理由です。

 

生きるとはどういうことか

本作が前作の『転校生』と作品メッセージが大きく異なることは、序盤に出てくるキルケゴールの『死にいたる病』からも伺えます。死にいたる病とは、肉体の死ではなく、精神の死のことであり、絶望のこと。これはイコールで「希望を捨てるな」ということでもあるのでしょう。

 

前作『転校生』との大きな違いは、入れ替わりのことは2人だけの秘密ではないということ。中盤になって、一美の彼氏のヒロシは気がついてしまうし、一夫の元カノであるアケミにも分かってしまうのでした。これはなぜなのか。その後、一夫の心が入った一美は自分の命が残り短いことを知って「外に出たい」というのですが、この病院からの脱出劇を手伝ってくれるのがヒロシでありアケミでした。そればかりか、金玉を蹴り上げた変質者みたいな大学生、謎の旅芸人一座、ピアノを運ぶ女性二人も、一美と一夫の逃避行を手助けしてくれます。これはなぜなのか。

 

「生きる」というのは、1人で行なうことじゃないからなんですね。いろんな人の力を借りて人間は生きている。知り合いだけじゃなくて、知り合いじゃない人の力も借りて、人間は生きているのです。

 

「君のためにこそ、死ねる」。かつて、ヒロシが一美に送ったメールに書かれていた一文を笑った一夫。一美の病によって死を間近に迎えた一夫は、その言葉の本当の意味を実感する。それは裏返しにすれば、「死にゆく僕のために、君には生きていてほしい」ということでした。

 

ピアノの弾ける一夫。物語を作れる一美。2人の心が合わさって生まれたのが、本作の主題歌にもなっている「さよならの歌」でした。

 


ありがとう大林宣彦監督【追悼】さよならの歌/蓮佛美沙子(2007年)「転校生さよならあなた」より

 

劇中ではじめて出てきたときはちょっと唐突なのですが、あらためて観なおすと、歌詞はその後の運命の暗示になっているとともに、人生において何かしら大好きなものの喪失を経験している人間には刺さる歌だと思います。

 

『転校生 ~さよなら あなた~』は単純なお涙頂戴ものではなく、「生と死」「喪失と再生」に向き合った作品であり、ある程度年齢を経た大人こそ観るべき作品だと思いました。かつての『転校生』は「サヨナラ、オレ」「サヨナラ、あたし」で終わった作品です。本作は「さよなら あなた」で終わります。これはどういうことなのか。観終わった後に考えてみてほしいなぁと思います。