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新越谷の先輩の話。

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「逃げる」というカードは、「ここぞ!」という時だけに使わないと見えにくい大きなペナルティを背負うことになるし、「ここぞ!」という時には絶対に使わないといけないカードだと思います。

 

 

 

 

昨年、10年以上勤めていた会社を辞めました。いろんな理由があるのですが、1つは体調に悪化でした。いわゆるメンタルですね。鬱というやつです。しかし、初期症状のうちに総務を巻き込み、産業医からお墨付きをいただき、仕事量を半年くらい減らしてもらって、転職活動に勤しむことに。そして、今の会社と出会って、40代で給与アップを実現しつつ転職できて、奥さんに怒られずに済みました。今、残っている同僚たちは、昨年よりも上がった目標の前でヒイヒイ息を切らしており、疲弊しきったかつての職場の話はゾッとするものばかりです。自分としては、「逃げる」のカードの使い時は間違っていなかったかなと思います。

 

「逃げる」といえば、新入社員時代に出会った先輩のことを思い出します。この先輩のことはスザクさんとしましょう。

 

俺は、当時、とある小売業に従事していました。店舗の販売員というやつです。1つの売場につき、正社員は3名体制。主任、二番手、三番手、という位置づけで、新人の俺は当然三番手です。スザクさんは二番手でした。このスザクさんが、ある日、突然、姿を消します。

 

その日は、週末のセール日の初日。荷物がたくさん来るという理由で、正社員は3人出勤というシフトでした。ところが、いつも誰よりも早く来るはずのスザクさんが、朝、バックヤードに行っても誰もいない。「アイツ、珍しく寝坊したのかな?」と主任は最初笑っていましたが、30分経っても、60分経っても来ません。スザクさんは真面目な人なので、俺たちは最初、事故に遭ったことを心配しました。何度も電話をかけますが、電話は切られたままです。かくして、この日は、2人で乗り切ることになりました。

 

スザクさんの行方は、2日後に判明することとなります。

 

スザクさんがいなくなった当日、事件に巻き込まれた可能性があったため、店長経由で実家に連絡をしました。電話に出たスドウさんのお母さんは「今朝はいつも通りの時間に会社に行った」と言います。そして、「思い当たるところを探してみる」と言ってくれました。そのお母さんがスザクさんを見つけます。

 

発見場所は、新越谷の風俗店でした。

 

当時、埼玉県越谷市にはたくさんの風俗店があって、街を賑わせていたのですが。スザクさんは会社に行かず、そのたくさんあるお店をハシゴしていたのです。「逃げた」理由を聞くと、「急に、何もかも嫌になった」というもので、「そうだ、風俗行こう」と思ったそうです。そんな京都みたいに行かないでほしいです。いや、別の意味でイクのか。

 

とにかく、戻った来たスザクさんを俺たちは温かく迎えました。「もう逃げるなよ」とクギを刺す主任に対して、「失った信頼は、仕事で返します…」とスザクさんは泣きそうな顔で言いました。

 

ところがスザクさんは、その後も2か月おきくらいに、突然、遁走しました。

 

そのたびに、スザクさんのお母さんに連絡がいって、新越谷の風俗店でスザクさんは発見されます。「アイツ、バカなのか?」と、主任はカンカンです。スザクさんのお母さんは、たぶん、スザクさんが逃げるたびに、新越谷の風俗店を1店舗ずつ回って、待合室を探し回ったのでしょう。そして、スザクさんは風俗店の待合室でプレイの順番が回ってくるのを待っているところを、母親に見つけられるのです。正直俺は、そんな恥ずかしい目に遭いたくないし、母親にそういう行動を走らせることは、なんというか、一線を越えた親不孝な気がします。

 

後から発覚したことですが、スザクさんは、以前、建設現場のクレーン操作を行なっていたそうです。そこも何回かにわたって逃走していて、工事を送らせてしまったために、クビに近いカタチで辞めていたそうです。

 

小売業に移ってから1年くらいは逃げていなかったのですが、また、再発したということでしょう。スザクさんは売上のいい店舗で、二番手を任されるくらいのいい働きをしていたため、部長の顔覚えも良く、新店のオープニングスタッフ候補に挙がっていました。しかし、度重なる遁走は主任も隠しきれず、スザクさんは新店のオープニングスタッフ候補から除外。代わりに、スザクさんが逃げた後の後処理をやっていた俺にスポットが当たって、俺が行くことになりました。

 

その後、スザクさんは別の店舗に異動となり、俺もいろいろあって主任に昇格し、主任会議に参加することになったのですが、スザクさんの評価は散々でした。いつ逃げるか分からない奴は信頼できない。それが、部長以下、マネジメントラインの方たちの共通見解でした。

 

「逃げる」は、習慣化するのです。そして、使えば使うほど限界のハードルは下がっていき、いつの間にか常習化してしまう。いつ、逃げるか分からない人間は、人から信頼されることはありません。人並みに信頼されないということは、キョリを置かれるということであり、評価もされることなく、本当に悲惨です。

 

その小売業をやめて、俺も別の会社に行ったりして、いろいろあったのですが。30半ばの時、上野のある居酒屋で、偶然、スザクさんとを見かけることになりました。彼は厨房に入って板前みたいなことをやっていて、年下の口の悪い店長にいいように使われていました。

 

「お前、また逃げるのか! ああん!?」

 

そんな風にいじられているスザクさんを見るのは、正直つらく、酔っ払うことはできませんでしたし、何を食べたかも思い出せません。記憶に強く残っているのは、「あの人、まだ逃げているんだ」ということだけでした。

 

「逃げる」ということは大切です。自分の身は自分で守らないといけませんから。しかし、逃げ癖は人生を大きく毀損するアビリティです。数値化されませんが、たくさんの可能性を失います。逃げてもいいのですが、ネットにはびこる「逃げてもいい」を、自分の都合のいいように解釈して自分を甘やかす判断をし過ぎるのは禁物。ジジくさい説教みたいになっちゃいましたが、本当にそう思います。