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【迷いと決断】借金をなくすか、女に溺れるか、で悩んだ人生の分岐の話。

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人生とは、常にあらゆる選択を迫られるビジュアルノベルのようなゲームなわけで。大抵の選択は、仕事帰りにコンビニで「ななチキを買うか」「セブンシューを買うか」といった未来に対した影響のないものですが、ごくたまに、世界線が変わるような重要な選択があったりします。俺にとっての重要な選択がタイトルのコレでした。今から15年くらい前のお話です。

 

 

クライマックスから話をすると…

「ねえ、女には賞味期限があるって知ってる?」
と、その女の子は言いました。

 

女の子といっても彼女は当時27歳。この年齢を聞くと、このセリフの重みがお分かりいただけるでしょう。お察しの通り、俺はこの女の子から別れ話を切り出されていました。大雨が降る11月のある日のこと。とある街のコインパーキングにとめた彼女のクルマの中でのお話です。

 

俺はその言葉に驚きを隠せませんでした。ちょっと考えれば分かることなのですが、男とはバカな生き物なので、あまり考えないものなのです。しかも俺は、本当に恥ずかしい話なのですが、この日、彼女に会った目的は「お金の無心」であり、流れ的に「エッチなこともできたらいいなー」とさえ思っていたクズ埼玉県代表。

 

「私は、結婚をしたいんだよね」
と、その女の子は言いました。

 

そのことには気が付いていました。彼女が26歳の頃から、「スーパーの買い物に付き合って!」といわれて、夫婦的な買い物をデートに汲み込んでいましたから。「彼女は俺との結婚を意識しているんだろうな…」となんとなく思いました。

 

じゃあ、俺はというと、結論を出し損ねていたというか。結婚相手として彼女が適任かどうか決めあぐねていた、というより、結婚というものがイマイチ「ピン」と来ていなかったのです。

 

「ちゃんとした人と、結婚したいと思っているの」
と、その女の子は言いました。

 

おそらく今日何を言おうか、ずっと考えていたのでしょう。彼女の口から出る言葉は、ふだん彼女が発する無計画なフィーリングで話すそれとは異なり、ひと言ずつ、きちんと考えられた言葉だと分かりました。付き合いが長いですから。もう5年付き合っていましたから。

 

そのころの俺は、ちゃんとしていませんでした。28歳・無職・自称クリエイター。バイトもせず、転職活動もせず、ボーっと暮らしていました。いや、働いていたんですよ。でもその会社が7ヵ月で倒産してしまって。しかも社長が給与未払いでトンズラこきやがりまして。さらに雇用保険をちゃんと払っていなかったらしく失業保険も貰えないという。激務の末がこれで。俺はなんか、すぐに立ち上がれなかったのです。でも、生きていくのにお金は必要ですから、俺はその女の子からお金を借りたり、お金をもらったりしていたのです。

 

「実は、もう、いい感じの人はいるんだよね」
と、その女の子は言いました。

 

聞けば、彼女が勤めているゴルフ場のレストランにイケメンシェフがいて。お昼ごはんを食べに行くたびにいろいろ話をして、1回2人だけでデートに行ってて、キスされそうになっていたりして、キスは拒否したけど、女としてはジュンとしたとかしていないとかで。正式に「結婚を前提として付き合ってほしい」と言われていて、彼の夢である自分のレストランを持つに付き合うのもいいかなーと思い始めているとか。

 

俺はと言えば、「ちょっと待て」とツッコミを入れたいところが何箇所かあったものの、自分の想定以上に事が進んでおり、そこまで彼女を駆り立てたのは自分であるという自覚もあって、しかし展開が早すぎて脳みその処理が間に合わなくて、結果、口をパクパクさせることしかできませんでした。

 

「キミとは、いい思い出で終わりたいんだ」
と、その女の子は言いました。


ああ、これから決定的なひと言を言われる。痛恨の一撃を放つ前のトロルキングがこん棒を大きく振りかぶった時の勇者御一行の気分はこんな感じなんだろうなと俺は考え、そんな例しか思いつかない自分のゲーム脳に絶句したものです。そして、

 

「貸したお金はもう返さなくていいから別れてほしい」
と、その女の子は言いました。

 

キターーーーー!普段から飄々としている俺ですが、このひと言は結構きたものです。クリティカルヒットです。俺はこの彼女に当時24万円借りていて、おごってもらった金額を合わせると50万円以上の「借り」がありました。

 

ここで「NO」と答えれば、俺は今後50万円を彼女に返さなければなりません。しかし無職です。転職活動もしていません。返せる見込みは当分なく、その間にもっと借りなければならないことが予想されます。しかし、あのセリフを言った以上、彼女はもうお金を貸してくれないでしょう。

 

一方、「YES」と答えれば、これまでの借金は帳消しです。無借金です。これから再スタートをきるためにも、マイナス要素はないほうがいいに決まっています。そもそも女なんてものは地球上に腐るほどいるわけで。俺のこれからの人生で、もっといい女の子に出会える可能性だってあるわけで。目の前の子に、あえて固執する必要なんて特にありません。50万円って、借りるのはカンタンですが、よくよく考えてみたら返すのは大変ですから。

 

よく考えて、俺は決断しました。

 

「実はさ、言ってなかったけど、転職活動を進めていてさ。結構、ちゃんとした会社に面接進んでいるんだよね。そこで内定もらうからさ。必ずもらうからさ。別れるって話はもうちょっと待っててくれないかな」

 

俺は、迷った末に、彼女と生きていく道を選んだのです。

 

ちなみに、「転職活動を進めていた」というのはウソです。偽りです。その場で言っちゃいました。当然、選考が進んでいるわけもなく。実際のところはエントリーシートも書いていないくらいですから。で、俺はその日は彼女と別れて、すぐに家に帰って、PCでいくつかの転職サイトに登録し、急いで転職活動を進めたのです。彼女には「ちゃんとした会社」と言ってしまっているので、自分がやりたい仕事とか、これまでの職歴とかを無視して、「ちゃんとした会社」だけを選んで応募しまくりました。

 

その結果、なぜか、そこそこ規模のある広告系の会社に引っかかることに。ぶっちゃけ、広告になんて興味がないし、気後れしかありません。でも、そんなことは小さいことです。面接官には、「激務だけど大丈夫か?」と聞かれました。俺は、「惚れた女の子に借金していて別れ話を持ちかけられている。就職して借金を返さないといけないから、ちょっとやそっとじゃ辞められません」と答え、後から聞くとこのひと言が選考会議で全員一致合格のキッカケになったそうで。俺は、口から出まかせで言った「ちゃんとした会社に転職できそう」と現実のものにすることができました。

 

でも、その原動力は彼女の存在です。彼女がいなかったら、彼女からハッパをかけられなかったら、俺はここまで動かなかったし、このような選択をすることもなかったでしょう。

 

そんな彼女と俺は、新卒で入社した会社の同期社員でした。入社1ヵ月目から付き合い始めて、くそ忙しい会社だったけど、毎晩電話して、仕事の愚痴を言い合いながら励まし合ってきました。その会社は先に彼女が辞めて、そのあと俺も辞めたのですが、俺たちの関係はそのまま続きました。

 

彼女といると、すごくラクなのです。そして面白い。どんなところに行っても、彼女といると楽しかったんですね。彼女との時間は俺にとって癒しであり、彼女とならどんなことでも乗り越えられると思いました。雨の降るあのコインパーキングのクルマの中で、俺は初めて彼女のことを真剣に考えて、すぐ隣にいて別れ話を切り出している女の子が、自分の人生においてどれだけの価値がある存在なのかに気がついたのです。

 

そんなわけで、無事に広告系の会社に入社することができたわけですが、ここも激務の会社で。いや、本当に大変でした。でも頑張って、入社2年目にはある部門の責任者まで任せていただくこととなり、彼女の20代最後の夜にプロポーズして、今は俺の奥さんであり、息子にとっての優しいお母さんになっています。この未来は、あの時の「迷い」と「決断」がなかったら、きっとたどり着けなかったものなのでしょう。

 

40歳をこえて、10数年勤めた広告系の会社を身体を壊して辞めることになったり。その後入った会社で社内クーデターに巻き込まれて2ヵ月で辞めることになったり。あいかわらず、波乱万丈な日々を送っている俺。「申し訳ないなぁ」と思いつつ、彼女の存在に本当に救われています。

 

「本当にキミといると飽きないわ(笑)。大変だと思うけど頑張って。キミが最後にきちんと帳尻を合わせてくれる人だって、私知っているから」
と、その女の子は言ってくれています。