『蒼き狼と白き牝鹿 ジンギスカン』とは、光栄から発売された歴史シミュレーションゲームのこと。チンギス・ハーンとして12~15世紀のユーラシア大陸の統一を目指すことが目的というゲームです。
この作品の面白いところは、オルドというシステムで、これは捕らえたときの姫を口説いて子どもをつくり、自分の軍の役職を与えられるというもの。そんなオルドがファミコン版にもあったことが驚きです。
「オルドってなんだ?」
親友アルガス(仮名)の家で、私は『蒼き狼と白き牝鹿 ジンギスカン』のプレイを見せてもらいながら、思った通りの疑問を口にしました。
「それは男と女のセックスだよ」
アルガスは答えました。セックスは大人の男女がハダカになって、チュッチュッとかいろいろする儀式みたいなものだ、と付け加えました。なんでそんなことをするの?と聞く私に彼は言いました。「子どもを産むために必要なんだよ」と。
なるほど。私は合点がいきました。このゲームは、捕らえた姫との間に子どもをつくり、血縁関係にあり裏切らない子どもに将軍などを任せ、自分の軍を強化していくわけだと。
「女の人をよりどりみどりか。すごいな」
「ああ、男はこうでないといけないぜ」
その時画面では、アルガスがプレイする大帝が捕らえた姫に声をかけるが「気分がすぐれませぬ」と断られていました。私はなんだか分かりませんが、遺伝子的にその様子を見て、すごく黒くて硬かったものがフニャっとなるイメージを持ちました。
「女なんて、金を握らせればイチコロなんだよ」
アルガスは画面を見ながら、そう言いました。画面を見るその目は、ちょっと大人の目をしていました。
アルガスの家は平屋建ての借家で、裕福そうには子どもにも見えませんでした。アルガスのお兄さんは高校生でしたが、土木系の仕事をしているとのこと。お母さんはいつもいません。働きに出ているわけではなく、いつもいないのです。何かあったようですが、なんとなく聞くのが憚れましたし、アルガスと私の友情には関係ないことだったので、私は何も聞きませんでした。
「うーい、帰ったぞ」
アルガスのお兄さんが帰ってきました。お兄さんは泥だらけの作業着のまま、ズカズカと僕たちのファミコンの前までやってくると、僕たちがプレイ中にもかかわらず唐突に電源を消し、『蒼き狼と白き牝鹿 ジンギスカン』のカセットを抜き、自分の『ドラゴンクエストIII』を挿しこんでプレイしはじめました。
抗議しようと身を乗り出したアルガスは、ゴンッと容赦なく顔面に強パンチを受け、鼻血が飛び出ることに。私はアイコンタクトで(いいよ!いいよ!)と伝えて、「外に遊びに行こうよ!」とアルガスを外に連れ出しました。
「ちくしょう、クソ兄貴め…」
アルガスは鼻血を止めるために青空を仰いで、悪態をつきました。「あんなんだから、また彼女に振られるんだよ。ざまみろ」。そして、ケケケ…と笑っていました。
「適わない相手に立ち向かうアルガスは格好良かったよ」
「そんなんじゃねぇよ」
その日は、ちょっと遠くの公園にまで行って、日が暮れるまで遊びました。
結論からいうと、『蒼き狼と白き牝鹿 ジンギスカン』を楽しむには私たちはまだ幼かったと思います。それでも、あの頃の私とアルガスは、学校から帰るとアルガスの家でずっとこのゲームをやっていました。それは、アルガスのお兄さんとお父さんの喧嘩でファミコンが壊れるまで続いたと記憶しています。
20数年後。
その日、私は繁華街の片隅で旧友アルガスを見ました。おそらく出会い系で相手にすっぽかされたと思われる女性相手に話しかけ、いろいろ交渉をして、最後に女性はコクンと頷いて、二人はそのままホテル街へ。
その日のうちにLINEで目撃したことを伝えると、アルガスは恥ずかしがっていました。そのうえで私は攻略法をくわしく聞くことに。
「オルド成功の秘訣は何?やっぱりお金?」
質問に対して、アルガスはLINEでこう返してきました。
「金で女の気を引くのは、三流のすることだぜ」
チンギスハンを軽くディスりつつ、結局、上手くいった交渉術の秘訣は分かりませんでしたが、アルガスは上半身も下半身も元気そうで、何よりです。