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【本のレビュー】『Red』(島本理生)――エロノトリガー!不倫小説と思っていたら既婚男子が震える女の怖さと優しさの物語だった話。

 

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この記事は、恋愛小説が得意な小説家・島本理生さんが「官能に挑んだ新境地」である『Red(レッド)』についての書評です。個人的に大好きな作品なのですが、ネットではピンとくるレビューが見当たらなかったので、自分として思うところを書いてみました。購入時の参考にしていただければ幸いです。

 

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突然ですが、女性作家が書くお話が大好きです。特に、大人の女性をテーマにしたモノが大好物なんですよ。その理由は、作品の中に“女性にしか書けない女性のリアル”があるからなんですね。こればっかりは、男性作家が逆立ちしても到達できないもので、そこにゾクゾクしてしまうんですよ。

 

私のこの意見に共感していただける方なら、今回紹介する島本理生さんの『Red』はきっと楽しんで読んでいただけるのではないかと思います。

 

ストーリーをざっくり紹介すると、こんな感じ。

 

主人公は、2歳の娘を持つ専業主婦である塔子(とうこ)。イケメンで大手企業に勤めている旦那と20代で結婚し、理解のある義理の母と不干渉の義理の父と同居して暮らしている誰もがうらやむ家庭を築いていた。彼女はある日、友人の結婚式でかつての不倫相手・鞍田(くらた)と再会する。セックスレスの夫とは違い、塔子を女性として扱ってくれる鞍田によって、ふたたび快楽の世界に引き寄せられていく――。

 

「よくある話だな!」という感想を抱かれたかもしれませんね。そう、序盤の流れは、不倫官能ものの王道なのです。が、さすがは直木賞受賞作家、島本理生さん。こちらの予想を想像を超えるカタチで裏切ってくれます。

 

結論から言うと、本作は既婚男性が震える話です。

 

愛する奥さんが影で何をやっているか分からない恐怖ではなく、既婚男性が気がつきにくい奥さんとの認識のズレ、静かに始まっている家庭の崩壊の恐怖です。それは塔子の不倫によって起こされるものではなく、それ以前からはじまっていました。その1つひとつは些細なものです。物語の中では、夫である真(まこと)が愚鈍な男として描かれていますが、多くの既婚男性が「えっ、同じことしちゃっているかも」「似たようなこと言っちゃったよ」という経験があるはず。奥さんがそういうことを気にしているなんて、気がつかなかった、知らなかった。これが男性読者としては「震える」のです。

 

島本理生さんの書く物語の特徴は、圧倒的なリアリティです。『Red』は物語の中にしかいない登場人物たちの話ではなく、現実世界にいくらでもありそうな、フツウの人たちの物語。だからこそ、知らずに「俺は奥さんのことを傷つけているのではないか?」「奥さんを追い詰めているのではないか?」と、私は不安になりました。

 

リアリティという話をしましたが、本作は、女性の結婚出産によるキャリアの喪失問題、女性として世間から強要されることが多すぎる問題、私おかあさんだから問題、夫婦間セックスレス問題、30代女性の性欲問題、義両親との同居問題など、現実的問題という地雷を踏み抜きながら進んでいくストーリーです。

 

このあたりはミステリーのような展開となっており、序盤で「この夫婦は何かあるな?」と読者に思わせておいて、少しずつ過去の出来事、塔子は何を飲み込んできたのかが、少しずつ明かされていきます。一見、誰もがうらやむ平和な家庭は、実は水面下で数々の問題を抱えており、現実は見た目とほど遠い状態。塔子はこれまで深く考えないようにしていたのですが、徐々にその問題と向き合わざるを得なくなるのでした。

 

官能部分も良いです。「自分は結婚して子どももいる身!だからこんなことで心を乱されてはダメ!」という女性が、何を考え、何に心をほだされ、少しずつ滑り落ちていく心情がとても丁寧に描かれており、行為シーンは淡白な描写なのですが、全編的にエロいです。付け加えて言うなら、主人公の塔子は女子高出身の地味系真面目女子なのですが、そういう女性のほうが派手目な人よりもエロいというのもあるあるですし、30代の女性が20代よりも性と愛に貪欲になっていくところも、生々しくてとても良いです。

 

ただ本作は、不倫がテーマだと「堕ちていく話」が多いのに対して、本作は不倫セックスをキッカケとして塔子が精神的に自立していく話であり、最終的な決断がすごくすごくいいので、読後感はカラッと清々しくなっています。

 

最後に、タイトルについて。『Red』というのが何を指しているのか。これは作中に特に名言はされていないのですが、あるシーンで描かれるある赤いモノのことのようです。これまでずっと嫌悪していたそれが、まったく違う印象になったと塔子が独白するのですが、まさに本作を象徴するシーンとアイテム(?)です。そしてそれをタイトルにするところがスゲェと思いました。

 

450ページありますが、読み始めるととまらなくなる作品です。オススメ。

 

 

 

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