ほぼ日刊レトロゲームレイダース

レトロゲームについて、ほっこり&もっこりする思い出話と雑談多め



【私の一人暮らし】初めての一人暮らしは、お隣の生活音が聞こえることも新鮮だった話。

「一人暮らしをしてないからお前はダメなんだ」

と、上司に言われたことがそもそものキッカケだった。一人暮らしの。

 

正直、意味が分からない。当時も、今でも、あれは的外れなアドバイスだったと思っている。実家暮らしは長かったが、料理・洗濯・掃除とひと通りのことはできるし、家賃なんてものに毎月お金をかけるのは得策とは思えない。しかし、新しいことに挑戦してみることで、見えてくる世界、感じられる世界はあるだろう。知らないより知っている方がいい。その経験にお金を使うのは有益だ。期間限定でやってみるのも悪くない。

 

そう考えて一人暮らしを始めたのは、社会人5年目くらいのことだった。

 

部屋はすぐに決まった。

掘り出し物があったからだ。メゾネットタイプの部屋だ。1Fにリビング&ダイニングとバス・トイレ、2Fに4.5畳と6畳という間取り。それで家賃は7万4000円だったと思う。安いのが気に入った。それに、経験をするための投資である。フツウの賃貸に暮らすよりは、少し変わった暮らしができるほうがいい。一人暮らしで3部屋使えるなんて、なんだかワクワクするではないか。

 

1Fのリビングはテレビとコタツとソファを置いた。ご飯を食べたり、映画を観たりするくつろぐ場所だ。2Fの北側の部屋は趣味の部屋&仕事部屋。PCを置いて、ゲームの用のテレビとゲームと本のコレクションを収納できる本棚も買った。2Fのベランダ側の部屋は寝室。この部屋はクローゼット機能があったので服はすべてそこにしまった。

 

生活は快適だった。やはり住む場所は広いほうがいい。移動するのが面倒くさいという考えかたもあるかもしれないが、移動するのが楽しいという考えかたもある。部屋を機能別に分けたのも良かった。用途ごとに自分が動く。そしてスペースをカテゴリーごとに充分に使える。いい感じだ。

 

唯一困ったのは風呂である。ユニットハスで、お湯を沸かせないタイプだ。水道代がもったいないのでシャワーばかりになるが、ずっと実家で湯船に浸かっていた身からすると肩まで浸かりたい欲求がある。それがストレスになっていたが、近くに銭湯があることが分かり利用するようになると、問題は解決した。

 

一人暮らしの料理は工夫が必要だ。買い物にも、メニューにも。よく考えないと、材料と手間が無駄になる。それはいい勉強になった。もともと飲食方面の仕事もしていたので、それなりのことはできるのだが、レパートリーが増えた。

 

休日は寝室でよく本を読んでいた。すると、お隣の生活音がよく聞こえることに気がついた。バタンとドアをしめる音。タッタッタッタッと子供がかける足音。トントントンと階段をのぼる音。まるで自分の部屋の音と勘違いするくらい、はっきりと。

 

平日はほとんど会社にいるので気がつかなかった。それに音が聞こえるのは仕事のない週末だけ。その気になれば、ヘッドホンをつければいいし。そこまでうるさい音じゃない。むしろ、一人暮らしのちょっと寂しい身としては、そういう生活音があったほうがかえって、なんか人の気配が感じられるというか、そんな気がして悪い気はしなかったのだ。

 

部屋は、夏は快適だった。あまり熱が通らない構造らしく、ほとんどクーラーをつけることもなかった。そのかわり、冬はすごく寒かった。

 

季節が一巡してもう半分が過ぎた頃、一人暮らしは終わることとなった。

 

引越しの挨拶のためにギフトを買い、メゾネットタイプの他の部屋へ訪問した。まずはいつも賑やかな生活音を届けてくれたお隣へ。引っ越してきた時以来、ほとんど交流はなかったのだが、こういう挨拶はしておいたほうがいいだろう。たしか、旦那さんと奥さんの新婚で、子どもが1人いるのかな? そんなことを考えて呼び鈴を押すが、誰も出てこない。ギフトの準備をしているときも生活音が聞こえたからいるはずなのだが。まあ、いい。次のお隣に行こう。

 

私の部屋はアパートの一番奥だったため、隣の隣のお宅の呼び鈴を押した。しばらくして女性が出てくる。「はい、なんでしょう?」。部屋の奥からピアノの音が聞こえてくる。引越しの挨拶をしてギフトを渡すと恐縮された。そのあとにつづく世間話。話の流れで、さっき出てこなかったお隣の話になった。

 

「もう随分前に引っ越しているわよ」

 

それは知らなかった。てっきり、よく聞こえている生活音は隣室のものだと、私は思っていた。別の部屋の音が、構造的に伝わって来ちゃったんだろうな。アパートってそういうものかもしれないな。そんな話題を振ってみた。

 

「ウチは聞こえないわよ。防音が売りのアパートだし」

 

たしかに、そのお宅はお子さんが奥の部屋でピアノを弾いているが、ドアを開けてもらうまで気が付かなかった。まあ、そういうこともあるだろう。アパートとは、賃貸物件とは、そういうものなのだ。

 

引越しの準備は、そんなに大変ではなかった。部屋いっぱいにダンボール箱が積まれたが、あとは引越し業者がやってくれるらしい。クローゼットの中でクレヨンが1つ見つかった。前の居住者の持ち物だろうか。まあ、そういうこともあるのが、アパートというものなのだろう。この一人暮らしは、人生において、そこそこいい経験になったと思った。

 

 

 

その可能性に気がついたのは、新居に引っ越した当日だった。

 

もしも、私がずっと聞いていた生活音が、隣の部屋の音ではなく、自分の部屋の中から聞こえたものだったとしたら。

 

お隣の下の階でドアをしめる音が、自分の部屋の下の階で実際にドアがしまる音だったとか。タッタッタッタッと子供がかける足音は、自分がいない上の階で実際に聞こえていた音だったとか。トントントンと階段をのぼってくる音が聞こえたとき、ドアの向こう側に何者かが本当は来ていた…とか。

 

あらためて、記憶にある音の聞こえかたを思い出してみる。それは、たぶん、自分の部屋から聞こえたとしてもおかしくない音の大きさ、だった。

 

そう考えると、異様に寒かった部屋。なぜか出てきたクレヨン。他にもいろいろ「あれ?」と思うところはあった。ひょっとしたら、そうだったのかもしれない。今の今まで、気がつかなかっただけで。人間って、本当に見たいもの・聞きたいものしか、見えないし聞こえないんだと、私は知った。

 

そんな私の一人暮らし(じゃなかったかもしれない)の話でした。