ほぼ日刊レトロゲームレイダース

レトロゲームについて、ほっこり&もっこりする思い出話と雑談多め



【レトロゲームの話】『ときめきメモリアル』と、暗黒の高校時代と、誰にも言えないやばいプレイの話。(後編)

f:id:retrogameraiders:20180310174922j:plain

 

<前回までのあらすじ>

手痛い失恋によって故郷を追われるように他県の高校に通うジョーンズ。しかし、心に受けたキズは深く、女子と目を合わせることも、まともに話すこともできない学園生活を送っていた。

 

「このままでは俺はダメになる」。そんな危機感に襲われたジョーンズは、最後の手段TMR(ときめきメモリアルリハビリテーション)という禁断の手を使い、女性恐怖症の克服を試みたのだった。TMRがもたらすのは福音か、それとも呪いか。

 

 

 今日、『ときめきメモリアル』というと恋愛シミュレーションゲームという認識が支配的だと思います。しかし、1994年のPCエンジン版発売当時は、ちょっと違っていました。いうなれば、「恋愛シミュレーション(笑)」みたいな。そんな雰囲気がゲームから漂っていたのです。

 

おそらく開発チームも、本気で恋愛シミュレーションを作る気はなかったのだと思います。上層部からの指示は、「PCエンジンではギャルゲーが売れるから、お前らも1つ作れ」的なものだったらしいですが、PCエンジン版『ときめきメモリアル』に、萌えとか、キュンとか、そんなものは一切なかったといって過言ではありません。

 

むしろ、アンチギャルゲー的な精神が、あのゲームデザインには感じられると、当時から私は感じていたのです。そう、PCエンジン版『ときめきメモリアル』は、NECアベニューとかが一生懸命に販売していたギャルゲーをどこか茶化しており、まったく同じ土俵で戦っていませんでした。

 

同じ土俵で戦う気なら、声優はもっと人気声優を使うはずだし、女の子たちも露出の大きい服を着るはずだし、もうちょっとエッチめなイベントがあるはずなのです。ところがないのです。ほとんどないのです。なぜか?

 

『ときめきメモリアル』というゲームは、高校男子である自分を成長させていく育成ゲームだからです。

 

これは、おそらくPCで出ていた『プリンセスメーカー2』を参考にしているのでしょう。1週間の行動時をチビキャラがちょこちょこ動くのは、そのオマージュだと思うわけです。自分を育てるゲームに、パラメーターとランダム要素で、女子キャラ登場フラグが立つ。そこでとりあえずギャルを出しておけば、ギャルゲーとしての体裁は立つだろう…そんな感じの作り。世の中にある寒いステレオタイプのギャルゲーに対して、関西人のノリを全開に、「俺らはそんなもん作らへん。とにかく楽しいゲーム作ったるで」と最初から「笑い」を取りにいっているゲーム。それが『ときめきメモリアル』の本当の姿だったと思います。

 

冷静に考えてみてください。『ときめきメモリアル』というタイトル。オープニングの「もっとモットトキメキ」という曲名と歌詞。卒業式の日に女の子から告白されるといいことが起きるという伝説の樹。伊集院レイというキャラクター。頬を赤らめている女子の画像。これ、すべて笑うところですぜ。

 

幸運なのか。不幸なのか。当時のコナミのゲーム開発力が高すぎて、体裁を上手く整えてしまいました。お笑い系ギャルゲーテイストのゲームは、本当にレベルの高いちゃんとした感じのゲームになってしまったのです。そして、妙にリアルな乙女が傷つき爆弾システムと、肝心なところはゲームが語らないけどユーザーが想像で補完できてしまうというゲームデザイン、そしていろいろ含めてやっぱり面白いことによって、新ジャンル「恋愛シュミレーションゲーム」として確立されてしまいました。

 

そのことは、おそらく開発者にとって想定外のことであり、PCエンジン版『ときめきメモリアル』は、偶然の産物で大ヒットになったゲームだったのではないでしょうか。

 

計算して作ったわけではないので、リメイク版も続編も初代のフォーマットから大きく逸脱することができず、難産な上でのパワー不足。開発者が他社や後に手がけた作品も、初代PCエンジン版ほどの起爆力を持てなかったのは、当然の帰結なのかもしれません。

 

いわゆるギャルゲーというよりも、男子高校生の学園生活シミュレーションという色合いが強かったPCエンジン版は、男子高校生としてフツウに女子と会話ができる環境を当時の私に与えてくれました。

 

本当にひどい話で。当時、私は高校入学から女子と一対一で話した時間の合計が「5分未満」という状態。数年間の高校生活で、たった「5分未満」。やばい。やばすぎる。だから、TMR(ときめきメモリアルリハビリテーション)しか、もう方法はなかったのです。

 

TMR(ときめきメモリアルリハビリテーション)とは、PCエンジン版『ときめきメモリアル』をヘッドホンをつけて、主人公のセリフをすべて自分で口に出してしゃべり、ゲーム内主人公とシンクロ率を高めることで、ゲーム内主人公と同様に同級生の女子とフツウにしゃべれることが当たり前の状態にする、というもの。

 

ひたすらゲーム相手に、会話のロールプレイングです。

 

当時の私は、毎日PCエンジン版『ときめきメモリアル』を2周くらいクリアしていました。全員クリアなんて当たり前。イベントコンプも当たり前。とにかく、自分の中にある女性恐怖症を克服するために、『ときめきメモリアル』で女子との会話を練習しつづけたのです。

 

随分後になってから聞いた話ですが、父は私のTMRを目撃したことがあったとのこと。用事があって私の部屋に入ると、私は超集中モードで、テレビに映っている女の子にガチで話しかけていたそうで。その異様な雰囲気は気圧されて、父は静かに後ろ歩きで廊下に戻り、ドアを閉めて去っていった…とのことでした。

 

季節は、『ときめきメモリアル』が発売された春が過ぎ、夏も越え、秋に。

 

リアル高校生活でも文化祭の時期になりました。私はクラスの男子実行委員(文化祭出し物の取りまとめ役)をすることに。そのとき、先生に1つ仕事を頼まれました。「女子の実行委員の子といっしょに、文化祭の出し物で使用する材料の見積もりを作るため下見をしてきてほしい」というものでした。

 

先生は私にしか話していないので、私から女子の実行委員の子にその話をしなければなりません。私はその女の子と一度も話したことがありませんでした。要件は全然色っぽい話ではありませんが、一対一で移動するということもあり、デートっぽい側面もあるシチュエーション。そんなつもりはなくても、相手から変な風に思われるかも。脳裏に中学3年のときの、大好きだった女の子の侮蔑の顔が思い出されます。マジか。またああいう風に見られるのか。キツイなぁ。

 

1時間目の休み時間。その子はずっとクラスメートの子と話していて、私が話しかけるスキはありませんでした。

 

2時間目の休み時間。その子は宿題か何かをやるのに夢中で。気軽に話しかけられる雰囲気ではありません。

 

3時間目の休み時間。クラスメートの子とトイレかどこかに行ってしまい、始業ベルのぎりぎりまで帰って来ませんでした。

 

昼休み。仲良しの友達と机を並べて、ランチとその後の会話を楽しんでいる様子。あのグループに割り込む勇気はさすがにないなぁ。

 

結局、延ばしのばしになってしまい。ついに放課後。彼女はいつの間にかクラスから出かけてしまい、結局、今日話しかけることはできせんでした。文化祭まで時間がないので、早く取りかからなければならないのですが。仕方がない。明日こそ、話しかけられそうなチャンスが来るのを待とう。一対一になれるチャンスを。

 

結論を先延ばしにしていることに気が付いていましたが、相手がいなければどうしようもないのも事実。明日頑張ると決めたことで気が楽になった私は、帰宅のために下駄箱に向かいました。

 

そこに彼女がいました。1人で。

 

誰かを待っているよう。今なら話しかけられるチャンス。でも、さっき、明日やると決めちゃったし。それに心の準備もできていないし。私は自分にいろんな理由をつけて。その子の横を過ぎて、上履きを下駄箱にしまい、靴を履いて、その子に背を向けて昇降口に向かいました。そう。明日頑張ろう。明日にしよう。

 

ところが、昇降口を出て校門が見えたとき、デジャブというか、何かがつながった感じがしました。いつも練習している、ときメモの下校イベント。それと現実がリンクした感じになって。急に私は冷静になったのです。

 

踵を返して、私は女子実行委員の子に話しかけました。

 

「今、帰るところ?」

「えっ、うん。そうだけど」

「俺たち実行委員じゃん。見積もり作るために材料見に行っておいてくれって、先生に頼まれているんだけど」

「うん」

「近々、放課後に時間あるかな?」

「うーん…」

 

そして沈黙。私は努めて冷静を装っていましたが、心臓はバクバク。そして、次に言われそうなイヤなセリフのイメージがほわんほわんと湧いてきました。

 

「いっしょに帰って、友だちに噂されると恥ずかしいし…」

 

うおーーー!!今、そのセリフをリアルで言われたら、今度こそ立ち直れないかもしれない。死ねる。マジで死ねる。精神世界で私が頭を抱えて叫んでいる間に、現実世界では、女子実行委員の子が待っていた女の子がやってきて、女子2人で何か話しています。絶対、俺のことだ。絶対、悪いこと言われてる。そう。非モテはネガティブなのです。このまま無視されて通り過ぎて行っちゃうことも想像していた私に、女子実行委員の子が話しかけてきました。

 

「じゃあ、今日行っちゃおうか。あの子とホームセンターに行く約束があったんだけど、たぶん、先生の用事もホームセンターで事足りるよね。いっしょに行っちゃうというカタチで」

「すみません。そうしてくれると嬉しいですー」

「僕も、それでいいよ」

 

本当になんでもないフツウの会話。文字に起こすとフツウすぎるくらいの会話ができたことが、私にとってはとても重要でした。思っていたより怖くない。イメージ通りに話すことができた。この日、私はずっとそびえ立っていた女性恐怖症という壁を、乗り越えられた気がしたのです。

 

そして、その日だけで合計5分未満の記録は大幅に更新され、文化祭実行委員という立場と文化祭という女子に話しかけるのが当たり前という状況に助けられ、リアルで女子と話すことにどんどん慣れていくことに。文化祭が終わるころには、クラスの女子が企画した打ち上げにも呼ばれ、ようやく学園生活らしいものを高校3年の秋になって送ることができるようになったのでした。

 

ステディな彼女に背中にキズをつけられる関係になるというところには、まだまだ道のりが遠いですが、道すじは見えた感じです。

 

その最大の功労者は何か?というと、やっぱりPCエンジン版『ときめきメモリアル』だったのかなーという。こんなゲームバカな青春の1ページがあってもいいのではというお話でした。