ほぼ日刊レトロゲームレイダース

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【本のレビュー】 『モノクローム・サイダー あの日の君と、レトロゲームへ』

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 ツイッターでフォローしていただいている元・【ゲーム探偵198X】こと鯨武長之介さんが、『カクヨム』で連載されていた奥さまとの出会いを書いた『モノクローム・サイダー』を大幅改稿して出版された『モノクローム・サイダー あの日の君とレトロゲームへ』。この記事は税別1100円で購入した読者としての書評となります。

 

書評記事は、2つのブログで両方掲載することにしました(実験的な試みです)。内容は少し変えています。m(_ _)m

 

 

 

結論からいうと、本作をオモシロイと感じることはできませんでした。一応、5回読み直してみましたが、その印象は変わりません。なので、私はこちらの作品購入をオススメしません。とはいえ、所詮、個人意見ですので、私が期待していたもの、裏切られたことを踏まえて、なぜ、面白くないと感じたかをお伝えしたいと思います。

 

本作は、作者である鯨武長之介さんが、高校時代にゲーム好きな奥さんと出会い、勇気を出して一歩踏み出したことで、これまで無縁だった女子と付き合うというステージに移行できた、という応援したくなる物語です。

 

いや、そのはずでした。

 

しかし、実際に読んでみたところ、主人公である長之介くんと、奥さまが上手くいくことを応援したいという気持ちが湧いてきませんでした。不思議なほどに。

 

似たようなシチュエーションの話に、中田永一さんの『百瀬、こっちを向いて。』という短編集があります。こっちは小説なのですが、まぎれもなく名作。オススメです。中田永一さんは乙一さんの別ペンネームです。乙一さんの作風をご存知の方ならお分かりいただけると思いますが、スクールカースト最下層の主人公を書くのが上手。ちょっとどういう話なのか説明します。

 

主人公のノボルくんは自称人間レベル2。クラスのイケている奴らと自分は生きている世界が違うと割り切って静か暮らしていました。しかし、恩のある先輩が二股をかけており、その片方の相手としばらく恋人のフリをしてくれと頼まれます。その相手が百瀬という女の子。ノボルくんに対してズケズケとモノを言い、彼は百瀬に振り回されっぱなしなのですが、彼女は唯一彼をフツウの男子として見てくれる存在でした。いつの間にか百瀬のことが好きになったことに気が付いたノボルくん。しかし百瀬が好きなのは先輩。この関係を続けることが限界になった彼は後悔します。「こんな気持ち知るんじゃなかった」「この気持ちを知ったせいで僕はめちゃくちゃだ」。そんな彼に同じ人間レベル2の親友田辺くんは言います。「僕は知りたいけどな、その気持ち」「それは尊いことだと思うよ」。その言葉に励まされて、ノボルくんは新しい一歩を踏み出す…という話です。

 

期待値が高すぎたのだと思いますが、私は『モノクローム・サイダー』に『百瀬、こっちを向いて。』のレトロゲーム版を求めていたのだと思います。しかし本作は、そういう作品ではありませんでした。悪く言えば、出来の悪い私小説。良く言えば、当時の思い出をできるだけ正確に書き残そうとした記録というところ。つまり、他人の高校時代の恋愛話に付き合わされる、ということになります。しかも、オタク同士のやり取りなので、大した展開はありません。

 

本作を読んでいて感じるのは、作者である鯨武長之介さんが奥さまのことを本当に愛していらっしゃるんだろうなぁということ。清々しいまでに。しかし、ストーリーテラーとしての未熟さゆえに、『モノクローム・サイダー』という清涼感あふれるタイトルなのに、読んでいて気持ちが淀んでくるんですよ、これ。

 

それがなぜかというと、原因は明確です。この話、各話の最後に、今現在の鯨武長之介さんと奥さまの当時のふり返りコメントが入るんです。

 

「どうやって(私の)攻略の糸口を見つけたの?」

 

「でも、行動に移せたんだからよかったね」

「あの時の僕は性欲が溜まっていたんだと思う」

 

「デートの前日はどんな気分だった?」

「うーん、正直、重かったかな?初めてのデートだったし」

「2日目だったのだよ」

「えっ?」

「前日の夕方に生理がきてね。デート当日はもっとも辛い2日目だったのだよ」

 

こんな感じ。

この会話を見て、本人たちの仲睦まじい様子にほっこりできるタイプの方は、この作品に適合資格があると思います。私は生理的嫌悪感を催したタイプなので、完全な不適合者でした。

 

私がここに生理的嫌悪感を抱いた理由はいくつかあります。1つ目は当人たちの物語で当人たちがネタばらし・舞台裏話をしてしまう点。学生映画でプロきどってオーディオコメンタリー付けてしまうような。達成者・成功者として自己評価している、でもまわりはそうは見ていないピエロ的な痛さがあります。

 

2つ目は情報オープンすぎること。性欲が溜まっている話とか。生理の二日目の話とか。必要ですか?と聞きたいです。ここには作者である鯨武長之介さんの意図が見えるんですよ。つまり、これは詳細な記録ってことなんだと思います。事実を残すことが第一目的になっているんですよね。

 

結婚が決まった後輩カップルを祝うために飲み会を開いたことを思い出しました。2人が主役ということで、馴れ初めは?普段どんな会話しているの?とか、最初は好意的に質問していたんだけど、2人にスイッチが入っちゃって、ずっとのろけ話。それでもその時の会は2人が主役だったからそれでいいと思っていたんだけど、その後日に開かれた忘年会・新年会でも、当人たちが「この話題みんな知りたがっているみたいだからなんでも答えまーす」みたいなコーナーを立ち上げて顰蹙買って。それに気が付かない2人は、2月の結婚式でポエムの朗読みたいな20分くらいのムービーを流されて、みんなゲンナリしたという経験が私にはあります。本作を読んだ時のザワつき感は、その感じによく似ているかもしれません。

 

最初は祝福していたことが、だんだん「まだ話しているのかよ」⇒「お前らのことなんてどうでもいいわ!」になっていく…ような。

 

実話ベースということで、鯨武長之介さんと奥さまとお子さまたちには微笑ましく暮らしてほしいと本心で思います。でも、この本を読んで、『カクヨム』に続編があると聞いて、「正直この話はもういいや」と思っている自分もいます。

 

そういう黒い感情を抱いてしまうのですが、ご家族をディスるみたいで、マイナスな面をレビューとして書きづらい。カドが立つし。「エッセイって究極何を書いてもいいわけだから、批評するのもおかしいかな…」と思いつつも、「よくよく考えたら税別1100円も払ってなんでこんなに気をつかわないといけないんだ、俺は客だぞ」とか、いろいろ悩んだ末にこの記事を書いています。

 

作家:鯨武長之介さんに一番足りないものは「読者へのサービス精神」だと感じました。作家でも何でもない私から忠告です(笑)。

 

本作を読んでいて感じるのは、基本的に「自分と家族のこと」だけしか考えられていないということ。読み手がどう感じるか、読み手にどう思わせたいかが弱い。ツイッターのつぶやきやブログ記事はそれでいいんだけど、お金が入ってくる仕事になるなら(今回のはちょっと違うかもしれないけど)、読み手に値段分の満足を与えるというサービス精神・価値提示は必要だと思います。

 

本作は、一歩を踏み出せないすべての人たちへの応援歌的なメッセージがあると思いますが、この本では応援メッセージが蛇足、本当に付け足しくらいのものにしかなってなくて、作者の「奥さん大好き!」しか伝わってきません。その作風を否定するつもりはありませんが、そういうものはファンやフォロワーといった周囲の温情があって初めて成り立つもの。1回しか通用しません。で、その1回は『カクヨム』での受賞で使っていると思うので、もう残弾ナシです。

 

であるならば、ファンやフォロワーにとってこの本は何なのか。どういう役割を持つのか。どういう使われかたをするのか。どう読まれたいのか。私には価値が見えませんでした。無料で読めるものなら読む。では、お金を払って読まれる価値があるものなのか。どうなのでしょう。

 

「勇気をもらった!」「何度も読み返したい!」と思われる作品にするためには、もっと多くの読者に共感されるように、もっと自身の心情をくわしく描写してみるといいと思います。本作は心情や葛藤を淡々と描きすぎ&ゲームネタに頼りすぎです。ひょっとしたら、それは照れくささによるものかもしれませんし、ゲームネタで笑わせようとしたサービス精神かもしれませんが、これによって、内容が浅く薄くなっており、結果、作品は「昔あった出来事を伝える」という機能しか持てなくなっており、「奥さまへのラブレター以上でも以下でもないモノ」となっているのではないでしょうか。

 

私は、他人が書いた奥さまへのラブレターを盗み見る趣味もなければ、もっと言えば奥さまへのラブレターを他人に見せたいという欲求もありません。そして、作者の奥さまを愛していることも、自慢の奥さまであることも強く伝わってくるんだけど、それを大声で発信してしまうことが生理的に受け付けないので(そういうものは他人に見せる必要はないという考えです)、好意的に二人の行く末を見守りたいというあたたかい気持ちになれなかったのでしょう。たぶん。

 

結構早いタイミングでBOOK OFFで見かけるようになってきたし、増刷されることはないと思われますが、いかんせん、出回りは少ない本です。コレクターアイテムとして一冊持っておくのは有りかもしれません。あと、『百瀬、こっちを向いて。』は本当にいいのでご一緒にどうぞ。