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【レトロゲームの話】『バンゲリングベイ』と、貸し借りトレードと、覚醒の話。

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 『バンゲリングベイとは、1985年にハドソンから発売された、何をやるのかよく分からないゲーム。ブローダーバンド社がコモドール64で発売したソフトが、ハドソンによってファミコンに移植されたもの。なのですが、何をやるか分からないため、その名前がイヤな記憶として刻まれている方も多いのでは。不人気で中古ゲーム屋の最安値ゲームとなっていました。

 

 

 

 

これは小学生の頃の話です。
子どもの社会は小社会であり、すでにヒエラルキーが形成されているもの。ゲーム少年の中では、「ゲームソフトをたくさん持っている者」が尊敬と人気と権力を集めていました。俺の友人である「マーカス(仮名)」も、その手の類の人種でした。

 

また、「ゲームソフトをたくさん持っている者」は、なぜか共働きの家が多く、日中は家に子どもしかいないため、誰からも咎められることなく、ゲーム少年たちはマーカスの家に集まり、ファミコンにいそしむことができました。

 

「今日は新作があるんだ。父ちゃんがまたパチンコの景品で、新しいのをもらってきてくれたんだぜ」

 

それはマーカスの口ぐせ。幼かった私は、パチンコで買って新しいゲームソフトをもらってきてくれる父親がいるマーカスを心底うらやましいと思い、(なぜ、ウチのお父さんは19時に家に帰ってくる真面目人間なんだ)と心の中でオラついていました。

 

今にして思うと、

 

夫婦共働きで、父親がパチンコに行っていることは、それなりの家庭の事情があったのでしょう。息子に景品としてファミコンソフトを持って帰ってきていたのは、奥さんに叱られることへの牽制の意味があったのかもしれません。

 

まあ、それはさておき。

 

一方、俺の家はというと、母親がとても教育熱心だったこともあり、ファミコンの購入にはかなり消極的でした。理由は、「アタマが悪くなる」「ダメな大人になるというもの。俺は現在、ゲーム漬けダメな大人になっているわけですから、ウチの母親には先見の明があったのかもしれません。何が言いたいかというと、必要最低限のゲームしか買ってもらえない。そういう家庭の子だったのです、俺は。

 

当時、ファミコンソフトの価格は1本4500~5500円。子どもが買うにはちょっと高かったため、いろいろなゲームで遊びたい子どもたちは、ゲームソフトの交換貸し借りを行なっていました。

 

しかし、そこには鉄の掟があったのです。交換できるソフトは、基本、「同等の価値があるもの同士」。でなければ、トレードは成立しませんでした。ゲームソフトの価値は、新作か、面白いか、やりこめるか、相手の好みのゲームジャンルか、といった指標で決められていました。

 

新作は総じてレートが高いです。人気ソフトもレートが高い。任天堂コナミナムコのものは面白いソフトが多いというブランドがあるのでレート高め。まあ、こんな感じでした。

 

では、このレートは誰が決めているのか。「ご意見番」というか正しい見識を持った発言力の強い者がいたのです。俺の友人であるマーカスもその1人でした。たくさんのゲームを所有している彼は、フラットにゲームの面白さを判断できる「目」と「情報」を持っていたのです。トレードは基本的にカセットを交換したい者同士で行なわれましたが、そのトレードが公平かどうか悩んだとき、意見を聞きにマーカスのところに来る者たちはたくさんいました。

 

マーカスは両者のゲームの特徴を端的に分かりやすく説明。ネガティブな面も隠すことなく伝え、それ以上にポジティブな面を伝える。「どういうゲームか」をきちんと先に教えることで、正しく面白さを感じられるナビゲーションをしているように、私は感じました。

 

で、俺のキン肉マン マッスルタッグマッチ』バンゲリングベイのトレードの話がきたときに、私は1人でマーカスに意見を仰ぎに行ったわけです。

 

なぜなら、『バンゲリングベイ』は子どもたちの間で「何をやればいいか分からないゲーム」「5分で飽きる」といわれており、事実、近所のおもちゃ屋さんでも、『バンゲリングベイ』は在庫が多く、買取不可になっていたほど。ゆえに、私はこのトレードは不成立だと感じていたのです。

 

マーカスは、静かにこう言いました。

 

「印象だけで一方的にレッテルを貼るなんて、バンゲリングベイが可哀想だよ。君はバンゲリングベイの何を知っているんだい?僕はバンゲリングベイのいいところを知っているよ」

 

そう言うと、「どこにしまったかな?」と本棚を探しはじめ、「あった、あった」と1冊のゲーム攻略本を見つけ、パラパラーとひらいて、あるページを私に見せました。その攻略本は、ケイブンシャ大百科別冊 ファミリーコンピュータゲーム必勝法シリーズ3 バンゲリングベイという本で、ひらいたページには『バンゲリングベイ』のストーリーが書かれていました。このストーリーを読んで、俺は震えました。

 

バンゲリングベイ』とは、アメリカ合衆国海軍第二艦隊の演習中に、異世界からの侵略者バンゲリング帝国の侵略を受けるという物語なのでした。半径10キロの海域が空間として遮断され、バンゲリング帝国は兵士と兵器を侵食し、地球侵略のための前線基地をこの海上に築こうとしていました。運よく帝国の侵食を受けなかったのは、戦闘ヘリ・シーアパッチ数機と空母ロナルド・レーガンのみ。戦力差で圧倒的に劣っている人類にできることは、帝国の地球侵略準備を遅らせ、人類反撃の時間を稼ぐこと。この空間から生きて帰ることはほぼ不可能であり、敵を殲滅することも不可能。己の命を愛する祖国と家族のために燃やし尽くす男は、バンゲリング湾強襲作戦を決行する…といったストーリーなのです。

 

「うおおっ」と叫びたくなるくらい熱い展開!なぜ空母を守らなければならないのか、なぜ敵の工場を破壊しなければならないのか。そして、なぜ主人公たちは勝ち目のない戦いにのぞまなければならないのか。すべてが分かりました。

 

「ジョーンズくん、これがバンゲリングベイだよ」

 

結論からいうと、『ケイブンシャ大百科別冊 ファミリーコンピュータゲーム必勝法シリーズ3 バンゲリングベイ』に書かれたストーリーは、公式のものではありませんでした。攻略本の編集スタッフによる力の入った創作とのこと。しかし、事前情報が入るだけで、あれだけつまらないと思っていたゲームが、とても魅力的に見える。いや、本当の価値が見えてくることに俺は驚き、マーカスに敬意を表したのでした。

 

マーカスを師と仰ぎ、私は彼からいろいろなことを学んでいくのですが、やがて対立別離を迎えてしまいます。それはまた別のお話ということで。